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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)3018号 判決 1955年2月25日

原告 新泉毛織工業協同組合

右代表者代表理事 深井景助

右代理人 金子新一

被告 大和信用組合

右代表者代表清算人 長谷川徳松

右代理人 稲垣利雄

主文

被告は原告に対し金五十万円及び之に対する昭和二十七年七月三十一日以降支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払うことを命ずる。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金十五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

理由

甲第四号証中被告組合関係の記名押印部分の成立については当事者間に争がなく、爾余の部分は証人大中満洲男及び同奥宮正庸の各証言によりその成立を認め得べく、右書証に成立に争のない乙第一、二号証、証人白江清次郎及び大中満洲男及び同奥宮正庸の各証言を合せ考えると、被告組合は元大優信用組合と称したが中小企業等協同組合法の施行により組織を変更し、昭和二十五年二月二十七日同法により設立を認可された組合で、その目的は(一)、組合員に対する資金の貸付、(二)、組合員のためにする手形の割引、(三)、組合の預金又は定期預金の受入、(四)、前各号の事業に附帯する事業及び、(五)、組合員に対する有価証券の貸付に限定せられているところ、被告組合は昭和二十六年下半期頃から資金が不足して経営困難の状態に陥り資金獲得の必要に迫られた。そして当時被告組合の組合長平島五郎は組合業務に不慣れなところから被告組合の理事で三菱銀行支店長の前歴を有し、金融業務に通暁していた奥宮正庸に組合長の事務代行を委任し、組合の記名印及び組合長の印鑑等の保管使用を為さしめていたところ、昭和二十七年五月頃奥宮正庸は内外商事株式会社代表取締役と称していた安木正義から被告組合に預金をするから同人振出の手形に被告組合の支払保証をして貰い度い旨の依頼を受けるに及び、被告組合のために預金を獲得すべく独断で安木の依頼を容れ、その結果安木は同年五月八日原告主張の手形を作成して来たので奥宮は組合長平島五郎から事務代行を委ねられていた権限に基き同組合長名義を以て該手形に支払保証を為し、安木は之を司屋こと五十嵐二郎に交付し、原告は右手形を五十嵐から裏書譲渡を受けて所持人となり、満期日に支払場所において該手形を呈示したが、支払を拒絶されたことを認め得べく他に右認定を覆すに足る証拠はない。被告は本件手形保証は法規並に定款に定められた被告組合の目的の範囲外の行為であるから無効である旨争うので、先ずこの点に付考案するに、凡そ手形行為なるものは種々の実質関係の決済手段として為されるものであるが、手形行為そのものは抽象的無色的性質を有するが故に実質関係とは独立に有効無効を決せられるものであるから、手形行為が法人の目的の範囲内に属するか否かは手形行為自体を対象として決すべきもので、その実質関係をも対象に含めて之を決すべきものではない。手形行為そのものは無色であつて単なる金銭取引の手段に過ぎないのであるから、苟も法人が金銭の支払及び信用の利用を為し得るものである以上、手形行為は常に当然に法人の目的の範囲内に属するものと謂わなければならない。而して右の理は当該手形が支払保証である場合にも勿論妥当し得るものである。

本訴において成立に争のない乙第一、二号証及び中小企業等協同組合法によれば、被告組合は一方において組合員から預金又は定期預金を受入れ、他方においてその資金を組合員に貸付ける等所謂銀行取引をすることを目的とする法人であるから、手形行為がその目的の範囲内に属することは明かである。被告は本件手形保証の被保証人も手形受取人も被告組合の組合員でないから、本件手形保証は被告組合の目的の範囲外の行為であると主張するのであるが、かかる事情は本件手形の実質関係に属するものに過ぎず、本件手形保証が被告組合の目的の範囲内に属するか否かを決定するに付何らの影響も与えるものではない。前記の如く手形行為そのものは無色であり手形行為の実質関係とは切離して思惟せられるものであるから、仮令手形行為の実質関係が法人の目的の範囲外に亘る場合にも手形行為そのものの、効力には何ら影響はなく、唯その場合には直接の当事者間に実質関係により生ずる人的抗弁が成立し得る余地があるに過ぎない。ところで本件の如く当該手形行為が支払保証である場合にも右の如き人的抗弁が成立するか否かはなお疑問の余地があるが、仮に成立し得るとしても本件においては被告は原告がかかる人的抗弁の附着を知つて本件手形を取得したとの主張も立証もないのであるから、右の如き人的抗弁を以て原告に対抗し得ないこと勿論である。次に被告は本件手形保証が偽造である旨抗争するけれども前段認定の通り本件手形保証を為した奥宮正庸は当時被告組合の理事として正当な代理権を有していたのみならず、組合長平島五郎からその権限の代行を委任せられていたものであるから被告主張の如く本件手形保証に際し、奥宮が組合長の承認を得べきものであつたとしても、かかる制限は善意の第三者に対抗し得ないものと解すべく、而もこの点に付原告が悪意の第三者であることについては被告は何らの主張も立証もしないのであるから、奥宮の権限に対する右の如き制限を以て被告は原告に対抗し得ないものと謂わなければならない。然らば被告は本件手形の支払保証人として原告に対しその手形金五十万円及び之に対する手形呈示の翌日である昭和二十七年七月三十一日以降支払済に至るまで年六分の割合による法定利息を支払うべき義務あること明かであるから、原告の本訴請求は正当として之を認容すべきものとし、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言に付同法第百九十六条を各適用の上主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 藤城虎雄 裁判官 日野達蔵 角敬)

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